大工の手仕事と地元の木が支える住まいの骨格
奈良県橿原市で育った木材を構造材から内装材まで一貫して使う——住まう工房 秦建築の家づくりは、この方針を軸に据えている。同じ気候のもとで成長した木は反りや狂いが出にくく、強度面でも長期にわたって安定した性能を発揮する。在来軸組工法に現代の耐震・断熱技術を重ねることで、50年先、100年先を見据えた構造設計を実現してきた。木材の選定から加工、組み上げまでを職人の手で管理し、将来のメンテナンス負担まで計算に入れた設計を行っている。
地元産の木は緻密な年輪を持ち、経年で表情が深まっていくという声が施主から寄せられることが多い。実際に築10年を超えた住宅を訪問すると、柱や梁の色味が落ち着き、室内の空気にほのかな木の香りが残っている。個人的には、この「時間が味方になる建材選び」が住まう工房 秦建築の設計思想をもっとも端的に表していると感じた。新建材では得られない経年変化を前向きに楽しめる住まいが、ここでは標準仕様になっている。
1999年創業、畝傍山の麓に構える自社工房の設備群
住まう工房 秦建築は1999年の創業以来、大和三山のひとつ・畝傍山を望む立地に自社工房を置いてきた。工房には直角2面カンナ盤や超仕上げ機、バンドソー、パネルソーなど多種の木材加工機が並び、木の裁断から仕上げ、組み立てまでを外注なしで完結させている。自動1面カンナ盤と組み立て機を併用することで、寸法精度を均一に保ちながらも作業効率を落とさない体制が整った。集塵機による粉塵管理も徹底し、加工環境そのものの品質維持にも配慮が行き届いている。
奈良県内の木材販売業者や加工専門業者との取引ルートが複数確保されており、必要な樹種・等級の材を安定的に仕入れられる仕組みが機能している。たとえば吉野桧を使った木塀の施工では、材の乾燥状態や木目の方向を工房内で細かく確認してから現場に送り出すという工程を踏む。こうした中間工程を自社で握ることで、現場での手戻りや品質のブレを抑えている。
古民家再生で旧い建物に現代の居住性能を重ねる
橿原市とその周辺には歴史ある木造建築が数多く残っており、住まう工房 秦建築はこの地域で古民家リノベーションを数多く手がけてきた。既存の梁や柱をできるだけ活かしつつ、耐震補強と断熱改修を施して現行基準の居住性能に引き上げる。建物ごとに構造の状態が異なるため、解体調査の段階で得た情報をもとに一棟ずつ改修計画を組み立てている。自然由来の素材を使う施工方針は新築と変わらず、再生後も建物本来の風合いを損なわない仕上がりを目指す。
「古い家の雰囲気は好きだけど冬が寒くて」という悩みを抱えていた施主が、断熱改修後に光熱費が大幅に下がったと話していたケースがある。梁を現しにした天井と新しい断熱材が共存する空間は、見た目の連続性と性能の飛躍が同居する独特の仕上がりになる。こうした再生工事で地域の木材を再び使うことにより、建物の寿命をさらに延ばす設計が実践されている。
施主との対話から始まる設計プロセス
住まう工房 秦建築が掲げるのは、「家は買うものではなく一緒に創るもの」という考え方だ。計画の最初期から施主の暮らし方や将来の家族構成について時間をかけて聞き取り、図面に落とし込む前の段階で方向性をすり合わせる。やり取りを重ねるなかで優先順位が変わることも珍しくなく、その都度プランを修正しながら合意形成を進めていく。完成後に「ここをこうしたかった」という食い違いが生じにくいのは、この初期対話の密度による部分が大きい。
「打ち合わせの回数に制限がなく、納得いくまで話せた」という感想を持つ施主が目立つ。堅牢な構造と日常の温もりを両立させたいという思いが屋号にも込められており、現場ごとに異なる要望を受け止める姿勢は一貫している。家族構成やライフスタイルが変化しても住み続けられる間取りの提案など、長期的な視点での助言が打ち合わせに自然と組み込まれている。


